技能実習制度廃止と特定技能2号の対象分野の追加

就労ビザ

今回のブログでは、「技能実習制度の廃止」と「特定技能2号の対象分野の追加」について、お伝えしたいと思います。

また、技能実習制度関連として、私が法的保護講習で技能実習生さんたちにお話している内容も、ご紹介します。

このブログは、外国人雇用と就労ビザに特化した情報を発信しているブログです。

記事を書いているのは、行政書士akiyama(就労ビザが専門の行政書士秋山治子)です。

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外国人の雇用や就労のビザについての疑問、お困り事等、どうぞお気軽にご相談ください。

技能実習制度を廃止して新制度へ移行

技能実習制度は、国際貢献のため、開発途上国等の外国人を日本で一定期間(最長5年間)に限り受け入れ、OJTを通じて技能を移転する制度です。

1993年に創設され、2023年12月末時点で約40万人が在留しています。

ですが、実際は、制度の目的と実態が乖離しています。労働環境が厳しい業種を中心に、人手不足解消手段になっています。

また、技能実習生の失踪が相次ぎ、犯罪に巻き込まれる実習生も少なくありません。

そして、人権侵害との指摘が国内外からあります。

これら多くの問題がある技能実習制度の廃止、そして新制度の創設が進められています。

その為、政府の有識者会議では、「技能実習制度及び特定技能制度の在り方」に関し、2022年末頃より定期的に話し合われています。

そして、2023年11月24日の第16回有識者会議では最終報告書(案)をまとめました。

技能実習制度及び特定技能制度の在り方:最終報告書(案)概要

出入国在留管理庁のホームページに、第16回の技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議の資料があります。

一部抜粋してご紹介します。

① 見直しに当たっての基本的な考え方

見直しに当たっての三つの視点(ビジョン)

国際的にも理解が得られ、日本が外国人材に選ばれる国になるよう、以下の視点に重点を置いて見直しを行う。

・外国人の人権保護:外国人の人権が保護され、労働者としての権利性を高めること
・外国人のキャリアアップ:外国人がキャリアアップしつつ活躍できる分かりやすい仕組みを作ること
・安全安心・共生社会:全ての人が安全安心に暮らすことができる外国人との共生社会の実現に資するものとすること

見直しに当たっての4つの方向性

1 技能実習制度を、人材確保と人材育成を目的とする新たな制度とするなど、実態に即した見直しとすること
2 外国人材に日本が選ばれるよう、技能・知識を段階的に向上させその結果を客観的に確認できる仕組みを設けることでキャリアパスを明確化し、新たな制度から特定技能への円滑な移行を図ること
3 人権保護の観点から、一定要件の下で本人意向の転籍を認めるとともに、監理団体等の要件厳格化や関係機関の役割の明確化等の措置を講じること
4 日本語能力を段階的に向上させる仕組みの構築や受入れ環境整備の取組により、共生社会の実現を目指すこと

技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議・資料1-2最終報告書(案)(概要)(第16回)

上記を見ると、「技能実習制度の廃止」というよりは、技能実習制度の在り方を見直し「より良い新制度への移行」となるような印象です

様々な問題のある技能実習制度ですが、どんな問題点があるのでしょうか?

技能実習制度の問題点

次に、その技能実習制度の問題点を書いてみました。

技能実習制度については、上記しましたが国内外からの批判が多いです。

報道等で目にする「技能実習制度の問題点」は主に、以下のような事があるのではないでしょうか?

・技能実習生が多額の借金を背負って来日している

・受入企業での技能実習生の人権侵害

・受入企業での賃金未払い

・技能実習生の失踪

・技能実習生絡みの犯罪や事件

確かに、技能実習制度を悪用する人や、技能実習生を狙った犯罪が多いのは事実です。

ですが、技能実習生の為に一生懸命力を尽くされている監理団体は多いです。日本で技術を学びたい、真面目に働きたいと思っている熱心な実習生も、当然多いのです。

技能実習生がなくてはならない存在になっている会社も少なくないのです。

私は、真面目で熱心な監理団体さんや、技能実習生さんに出会う方がもちろん多いです。

それだけに、技能実習制度の悪い部分の報道が、かなりクローズアップされている事が大変残念です。

技能実習生の法的保護講習

さて、技能実習生は入国時に座学の講習を受けなければならないことをご存じでしょうか?

「入国後講習」という講習です。その講習後に、技能実習生は決められた会社に入社します。

「入国後講習」では日本語を中心に学びます。その他、日本の生活一般の事や習慣等も学びます。技能実習生に関係する法律も学ばなければなりません。

私は2019年から入国後講習で主に法律を教えています。技能実習法、入管法、労働関係の法律などです。この講習は「法的保護講習」と言われています。

私が技能実習生さんたちと接するのは、主に、この法的保護講習の場です。

よく聞く「失踪問題」とは違う「失踪」

ところで、私は、外国人の就労関係のビザに特化した行政書士です。

その仕事柄、技能実習の監理団体(組合)や登録支援機関の方とお話する機会も多いです。その機会に、私が実際に聞くのは、失踪問題です。

ですが、実際に私が出会う「失踪」はマスコミで取り上げられる「失踪」とは違いました。

以前、私の「技能実習生の失踪」イメージは、受入れた企業に問題があるケースでした。「人権侵害発生➡技能実習生が逃げる」が失踪のイメージだったのです。

けれど、技能実習生関連の仕事をし始めて、必ずしもそのパターンばかりではないと知りました。特に、最近の失踪はSNS絡みの事件が多いのです。

私が聞いた「失踪」はSNSで、「よりラクな仕事でより高い報酬がもらえる」との誘いを真に受けて失踪するパターンでした。

監理団体や研修センターの指導者・相談員も大変です

技能実習生たちが、SNS等で「より良い給与や環境がある」という誘いにのって安易な気持ちで失踪するのです。

監理団体や会社は熱心にサポートしています。

ですが、ある日突然いなくなるのです。「原因が分からない失踪パターン」です。

以前はたまに、法的保護講習中、態度が悪くうんざりする実習生もいました。ですので、そのような態度の怪しい実習生には厳しい事を言っていました。

特に失踪に関しては「失踪して別の仕事をすれば犯罪である」と繰り返し教えていました。

態度の悪い技能実習生を指導していく監理団体さんや、研修センターの先生方も本当に大変です。

法的保護講習で特にしっかりと教えること-1

それでは、ここからは技能実習制度の問題点関連で、私が法的保護講習で力を入れている内容になります。

・相談してください

まず、私が法的保護講習で、技能実習生に最初に教えることは、「何かあれば必ず相談してください」ということです。技能実習生が配属された会社で、困った事や辛いことがあった時です。

何かあっても相談先がわからず、失踪してしまうことは絶対になくしたいからです。監理団体の通訳さんや相談員さん、外国人技能実習機構の母国語相談等の連絡先を教えます。

・人権侵害禁止

次は、とても基本的な事です。技能実習生に対して以下のような行為は「人権侵害行為」です。これらの行為は禁止です。

・技能実習を強制する
・違約金等を定める
・貯蓄金を管理する契約をする
・旅券・在留カードを取り上げる
・私生活の自由を不当に制限する
・実習生に暴力を振るう、暴言を吐く
・給与や残業代を支払わない

このような事があれば、相談してください、とお伝えしています。

法的保護講習で特にしっかりと教えること-2

・技能実習生は決められた仕事以外出来ない

それから、「技能実習生は決められた仕事以外出来ない」ということです。これは、分かっているようで、分かっていない人がいます。

前に、あるスーパーの店長さんから電話がかかってきました。

「技能実習生が面接に来ています。雇っても大丈夫ですか?」

たまにですが、このようなお問合せもあります。

技能実習生は決められた仕事以外の仕事はできません。もちろん、アルバイトもできません。

・転籍について

これも、かなり前の事ですが、実習生が会社の社長から暴力を振るわれたのです。また、残業代が支払われないという事もありました。

その子たちが泣きながら監理団体に相談してきました。監理団体もすぐに彼らを助けに行き、別の会社に「転籍」させました。

マスコミの伝え方では「技能実習生の転籍は出来ない」という印象が強く残ります。しかし、正しい監理団体は、正しい判断をして転籍させています。

法的保護講習でしっかり伝えることは、「通常転籍はできません。でも、人権侵害や賃金未払いがあれば、監理団体に相談してください。改善なければ別の会社で働けます」ということです。

ただ、会社の行為がひどすぎる場合は即、「転籍」です。

法的保護講習で特にしっかりと教えること-3

・女性技能実習生の妊娠、出産絡み

ところで、近年、技能実習生の妊娠や出産に関する事を目にするようになりました。技能実習生の赤ちゃん遺体遺棄事件も起こっています。

法的保護講習でも妊娠、出産に関する人権問題について、「技能実習生手帳」に基づいて説明をします。

この問題は男女関係なく、実際問題として真剣に考えて欲しいです。日本に来た目的を忘れず、責任の取れる考えと行動をとって欲しいと話します。

・技能実習の再開

それから、会社の事情(例えば倒産など)だけでなく、自分がケガや病気で技能実習を続けることが困難になった場合のこともお伝えしています。

会社の事情で技能実習を続けることが困難な場合は、別の会社に転籍させることが出来ます。

自分のケガや病気の場合は、治療の為帰国もできます。そして、技能実習生が希望すれば、ケガ等が治ったら改めて技能実習を再開することもできます。

・技能実習生犯罪の注意喚起

その他、技能実習生を巻き込んだ犯罪のことについてもお話して注意喚起します。

特定技能2号の対象分野の追加

さて、ここからは、特定技能制度についてです。

まずは、以下の表をご覧ください。

以下の表は、2024年6月末の「特定技能在留外国人数(速報値)」です。特定技能1号外国人の6月末の数字になります。全体で251,594人です。12の分野別の数字が右側にあります。

出典:外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組(令和6年9月30日更新・出入国在留管理庁)

特定技能制度とは?簡単に

次に、特定技能制度とは、どんな制度なのでしょうか?簡単に書いてみました。

深刻な人手不足にある人材確保が困難な「特定産業分野」に、一定の専門性・技能をもつ即戦力となる外国人を受け入れていく制度のことです。

2019年4月創設されました。この制度でできたのが特定技能1号ビザです。当初は12分野でした。

しかし、2024年3月に対象分野、「自動車運送業」、「鉄道」、「林業」、「木材産業」の4分野が新たに追加されました。それで、1号の「特定産業分野」は16分野となりました。

一定の専門性・技能をもつ即戦力となる「特定技能1号」の外国人がいます。そして、より熟練した技能を持つのが「特定技能2号」の外国人です。

16の「特定産業分野」とは、下記の分野です。
・介護 
・ビルクリーニング 
・工業製品製造業
・建設
・造船・舶用工業 
・自動車整備
・航空
・宿泊
・自動車運送業
・鉄道
・農業
・漁業
・飲食料品製造業
・外食業
・林業
・木材産業

1号ビザ取得には、技能試験や日本語試験に合格しなければなりません。

ですが、技能実習制度を良好に修了した場合は(同じ仕事内容であれば)試験なしで特定技能1号に移行できます。

ところで、1号と2号の大きな違いは、2号は、配偶者と子供の帯同が認められることです。条件を満たせば永住もできます。

そして、1号の在留期間は通算上限5年ですが、2号は更新回数に制限がありません。

特定技能2号に追加された分野について

実は、以下の、2023年(令和5年)6月9日付で入管庁のホームページに更新された情報にあるように、2号は当初、建設と造船・舶用工業の溶接区分のみが対象でした。

以下がその抜粋です。

特定技能2号の対象分野の追加について
 熟練した技能を要する特定技能2号については、特定技能1号の12の特定産業分野のうち、建設分野及び造船・舶用工業分野の溶接区分のみが対象となっていましたが、ビルクリーニング、素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業の9分野と、造船・舶用工業分野のうち溶接区分以外の業務区分全てを新たに特定技能2号の対象とすることとしました。
 これにより、特定技能1号の12の特定産業分野のうち、介護分野以外(注1)の全ての特定産業分野において、特定技能2号の受入れが可能となります(注2)。
(注1)介護分野については、現行の専門的・技術的分野の在留資格「介護」があることから、特定技能2号の対象分野とはしていません。
(注2)本取扱は、令和5年8月31日、出入国管理及び難民認定法別表第一の二の表の特定技能の項の下欄に規定する産業上の分野を定める省令(平成31年3月15日法務省令第六号)等が改正・施行されたことにより、同日から開始されています。

特定技能2号の対象分野の追加について(令和5年6月9日閣議決定)出入国在留管理庁HP

ですが、上記のように、特定技能1号の12の特定産業分野のうち、介護分野以外の全ての特定産業分野で、特定技能2号の受入れが可能となりました。

また、これも上記されていますが、介護分野には、現行の専門的・技術的分野の在留資格「介護」があります。

その為、特定技能2号の対象分野とはされていません。

外国人関係のビザに関しては、近年、よく省令などが改正されたり、緩和されたりしています。

以下のサイトをこまめにチェックすることをおすすめします。

技能実習制度廃止と特定技能2号の対象分野の追加:まとめ

さて、今回のブログでは、「技能実習制度の廃止」と「特定技能2号の対象分野の追加」について、お話しました。

「技能実習制度の廃止」というよりは、技能実習制度の在り方を見直し、「より良い新制度へ移行」となるように思えます。

また、技能実習制度関連で、私が法的保護講習で技能実習生さんたちにお話している内容も書かせて頂きました。

今後も技能実習制度や特定技能制度の事をブログに書いていく予定です。是非ご覧ください。

このブログが読んで下さった方のお役に立てれば幸いです

出典:
技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(第16回) | 出入国在留管理庁
最終報告書(案)資料1-2(技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議事務局作成)
特定技能2号の対象分野の追加について(令和5年6月9日閣議決定) | 出入国在留管理庁
外国人技能実習制度について(令和6年10月1日改訂版)|
 法務省 出入国在留管理庁 厚生労働省 人材開発統括官
外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組(令和6年9月30日更新更新・出入国在留管理庁)
外国人技能実習機構:技能実習生手帳 基本情報 | 外国人技能実習機構